日本史上最悪の獣害「三毛別ヒグマ事件」から110年―今も続くクマとの闘い―先人の誓いを胸に巨大グマから町を守り続ける地元猟師の決意とは「撃たなければならないから、撃つ」<北海道苫前町>
大川さんは、捕ったクマの頭を祀り、ろうそくを立てて手を合わせたという。
命への敬意を忘れない姿勢が、そこにはあった。
幼い頃、大川さんにクマ撃ちに誘われ、その背中を見て育ったのが林さんだった。
猟師になっておよそ50年。今も林さんは、先人から学んだ教えを胸に刻んでいる。
「沢底から上にいるクマを撃つな。そのまま滑り落ちてきて、まだ動けるやつがいる。少しでも高いところに上がって、二の矢を撃てる態勢で撃て」
毎朝、林さんはわなを見回る。
しかし、110年が経った今も、クマとの闘いは終わっていない。
「今年は出方が異常だ」
町内では連日のようにクマの目撃情報が相次ぎ、体重が400キロ近い巨大なクマが現れ、箱わなをなぎ倒す様子も確認された。
「くだらないわなで俺を捕まえる気か、とクマが笑いながら去っていった感じだな」
苦笑する林さん。その後、この巨大グマは箱わなにかかり、ようやく駆除された。
「今までわなで捕獲したクマでは最大」
驚くほどの大きさと、用心深さだった。
一筋縄でいかないクマの出没。林さんの心が休まる日はない。
■後世に伝えるべきこと―
悲劇を風化させてはならない――。
町では、三毛別ヒグマ事件を語り継ぐ取り組みが続けられている。
その一つが、頭が獅子ではなくクマの姿をした「苫前くま獅子舞」だ。
50年以上にわたり受け継がれてきたこの舞は、事件をもとにした物語を描く。
開拓者のもとにクマが現れ、命を奪う。
猟師がクマを討ち、悲しみから立ち上がっていく――。
人とクマの共生を問う物語を、今は町の子どもたちも演じている。
保存に携わるメンバーの中には、幼い頃に聞いた話が忘れられないという人も。
「祖母から、事件当時、クマが骨をかみ砕く音が聞こえたという話を母が聞いていた」
担い手不足で活動が途絶えかけた時期もあったが、子どもたちが加わり復活した。
「楽しい出来事ではない。でも、こういう人たちがいたから今の苫前がある。後世に伝えていかなければならない」
■撃たなければならないから、撃つ
「共生というのは、お互いに認識し合って、認め合うこと。でも現実には、お互いに恐れて近づけないようにする。それしかない」
刀を見つめながら、林さんは静かに語る。
「この刀には、大先輩の気持ちが入っていると思う」
撃ちたくて撃つわけではない。撃たなければならないから、撃つ。
クマが増え、誰かが犠牲になることを防ぐために――
110年前の悲劇の地で、先人から受け継いだ覚悟を胸に、林さんは山へ向かい続ける。




















